初めましての方は第1話からどうぞ✨
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そこは悠介くんとよくお茶をしに来るカフェで、
平日の昼前はそんなに混んでいない。
今はもう行かないけれど、
パンケーキがふわふわで大好きだった。
話を戻す。
私たちは窓際の席に向かい合って座った。
恋愛心理学的に言えば
隣同士か、もしくはL字になるように
座った方がお互いにリラックスして親密度が高まる。
でも今回は、真剣な話し合いのため
真正面に向かい合った。
「それで、なんで元カノとまだ連絡を取ってたの?」
そのとき、コーヒーがちょうど運ばれてきた。
店員さんもこの少しだけピリッとした空気を読んだのか
笑顔が固い気がする。
人はなぜコーヒーの実を摘んで飲もうと思ったんだろう。
私たちがコーヒーを口にするまでに、
木を植え、花を咲かせ、実を摘み、豆を加工して焙煎する。
いくつもの工程があって、
たくさんの人の手が関わっている。
おいしくコーヒーが飲めることは
当然ではなく、実はこの上なく幸せなことなのだ。
ところで、こいつはいつまで黙っているのか。
私がコーヒーについて考えていた時間
沈黙していた。
顔を伺うと、真剣な表情でどう説明しようかと
考えているようだ。
こういう人とのやりとりに
確かな正解なんてものはない。
人間関係の難しいところだと思う。
しばらくして悠介くんが
ポツリポツリと話し始めた。
「元カノに振られてから、別れたのにたまに会う関係がずるずる続いてた。俺はヨリを戻したかったけど、あっちにはもう彼氏ができたみたい。」
「それっていつ?」
「俺が初めてうつ子さんと会った日に知らされた。」
だから、あんなに冷たかったのか。
元カノは予言者か超能力者なのか。
まるで狙ったようなタイミング。
『人生で初めて』っていうフレーズは、
なんだか特別な感じがして好きだ。
これまでも多用してきたし、
多分これからも多用していくと思う。
今回はちょっとネガティブだけど、
『人生で初めて会ったことも見たこともない女に殺意が湧いたわ』
「今、未練があるかと聞かれたら、正直言えばある。でも今回うつ子さんにLINEを見られて、今自分にとって必要な人って誰なのか考えたよ。そしたら、頭の中に真っ先にうつ子さんが浮かんだ。本当に傷つけてごめんね。別れないでください。」
悠介くんはたぶん本当に嘘をつかないで話している。
確証はないけれど、
嘘をついていない“顔”だ。
その時は確証はなかったけど、
後々証明されていくことになる。
今回は彼の正直でまっすぐな言葉を信用してみよう。
「わかったよ。でも、お願いがある。」
「なに?」
「元カノと2度と連絡を取らないで。」
もう涙腺が限界だ。涙が溢れてくる。
今まで彼と一緒に過ごしてきて、
優しくて人のことをちゃんと思える人だってわかった。
一途な性格で、元カノに未練たらたらだ。
そんな悠介くんに別れた後も
ずっと粉をかけ続ける女なんて許せない。
もう金輪際悠介くんと連絡を取らせたくなかった。
「わかった。今からうちに来てよ。連絡先を消したりするからさ、見ててよ。」
私は泣きながらうなずいた。
雨が降って、地面が固まる。
今回はまさにそのとおりだ。
「LINE勝手に見てごめんね。」
「もういいよ。」
「悠介くん、好きだよ。」
「俺もうつ子さんのこと、好きだよ。」
二人が暖かくて柔らかな空気に包まれる。
ああ、やっと本当の恋人になれた。
二人で手を繋いで彼の部屋へと歩いて向かった。